米国進出事業形態

日本企業が米国で事業を営むときに法務上、税務上及びその他の事情を考慮して事業形態を決める必要がある。それぞれ特徴があり最適の事業形態を選択する必要がある。ここでは主な特徴を簡単にまとめてみた。

まず考えられる主な事業形態として下記の8つがあげられる。

  1. Representative Office (駐在員事務所)
  2. Branch(支店)
  3. C Corporation (現地法人、通常の株式会社)
  4. Partnership (共同事業体)
  5. Limited Liability Partnership (有限責任共同事業体)
  6. Limited Liability Corporation (有限責任株式会社)
  7. Sole Proprietorship (個人事業主)
  8. S Corporation(小規模法人、税務上非課税会社)

1.Representative Office (駐在員事務所)

日米租税条約で規定され、実際の事業を行う形態ではないが、日本企業の多くが米国進出の第一歩として採用してきた形態である。設立に関してはIRS及び州政府当局等への法人設立等の届出は必要ない。下記に述べる規定範囲の業務に限定されるが、連邦税法上非課税である。ただし年一回の報告書の提出は義務づけられている。連邦法人所得税以外の給与関係税、固定資産税等の納税及び報告義務はある。上記駐在員事務所活動の報告、給与関係税及び州法人税支払及び報告等のために連邦雇用主(法人)番号の申請及び取得が必要である。州税法上は一般の会社と同等に取り扱われ、営業許可の申請、予定納税支払及び年一回の税務申告書提出が義務づけられている。

日本の法人が米国において課税されるのは恒久的施設(Permanent Establishment)を有し産業上又は商業上の活動を行っている場合のみである。ここでいう恒久的施設とは事業を行う一定の場所であり、次のものを含むが、これに限らない。(A)支店 (B) 事務所 (C) 工場 (D) 作業場 (E) 倉庫 (F) 鉱山、砕石場、その他天然資源を採取する場所 (G)建設工事現場又は建設若しくは据付けの工事で、12ヶ月を超える期間存続するもの。

ただし次に挙げる活動を行う「一定の場所」は上記で規定されている恒久的施設とはみなされない。

  • 当該法人に属する物品又は商品の保管、展示又は引渡しのため施設を使用すること。
  • 当該法人に属する物品又は商品の在庫を保管、展示又は引渡しのため保有すること。
  • 当該法人に属する物品又は商品の在庫を他の者による加工のために保有すること。
  • 当該法人のために物品若しくは商品を購入し又は情報を収集すること。
  • 当該法人のために広告、情報の提供、科学的調査その他これらに類する準備的若しくは補助的な性質の活動を行うこと。

駐在員事務所として可能な活動は上記の例外規定に基づく活動のみとなる。

2.Branch(支店)

文字どおり日本の会社の支店として事業を行うことをさす。具体的には上記の恒久的施設を有し産業上又は商業上の活動をおこなう場合である。事業を行う州で当該州政府へ外国法人として登録を行う。(米国の会社登録は州に対して行うが、会社設立州以外の州でも事業を行う場合はForeign Corporationとして事業をする州へ事業登録を行う。日本の法人の場合はあたかも、この米国内他州で設立された会社と同様の会社登録を行う。)連邦税法上は米国での活動からの利益及び超過利息が課税対象となり、年一回の税務申告書の提出が義務づけられている。勿論、連邦法人所得税以外の給与関係税、固定資産税等の納税及び報告義務もある。給与関係税、連邦及び州法人税支払及び報告等のために連邦雇用主(法人)番号の申請及び取得が必要である。州税法上は一般の会社と同等に取り扱われ、予定納税支払及び年一回の税務申告書提出が義務づけられている。

支店の主なメリット及びデメリットは下記のような点があげられる。

メリット

  • 事業開始初期の損失を日本の会社の所得と相殺することができる。
  • 本社経費は合理的な範囲で支社負担とできる。
  • 利益送金する場合源泉税の対象とならない。(ただし、超過利息に関しては別に課税される。)
  • 本社間取引は移転価格税制の対象とならない。

デメリット

  • 支店の債務、責任が本社に直接及んでくる。裁判の被告となりうる。
  • 連邦及び州税務当局の調査が本社まで及び(実際の適用はまれ)本社帳簿その他の資料提出を求められる。
  • 利益を計上した際、本社の所得に合算されて日本の課税を受ける。
  • カリフォルニア州で事業を行う場合は日本の本社がユニタリー・タックスの対象となる。

実際にはデメリットを考慮し保険及び金融機関等以外は支店形態を選択している企業は少ない。

3.C Corporation (現地法人、通常の株式会社)

米国で会社を設立し産業上又は商業上の活動をおこなう場合である。設立州を選択し会社登録を行い又事業を行う州で当該州政府へ登録を行う。連邦及び州税法上も課税対象となり、年一回の税務申告書の提出が義務づけられている。勿論、連邦法人所得税以外の給与関係税、固定資産税等の納税及び報告義務もある。給与関係税、連邦及び州法人税支払及び報告等のために連邦雇用主(法人)番号の申請及び取得が必要である。

現地法人の主なメリット及びデメリットは下記のような点があげられる。

メリット

  • 現地法人は日本の親会社とは別法人となり責任分断効果があり株主の会社に対する責任は出資金までに限定され、訴訟の際親会社まで責任が追求されることはない。ただし、子会社の法人格否認による親会社への責任追及はあるかもしれない。
  • 日本の親会社に配当するまで日本での課税を繰り延べることができる。
  • 米国子会社が欠損の場合、日本での連結対象でなければ親会社の損益には直接影響しない。
  • 米国内の他の現地子会社がある場合連邦連結納税制度を利用できる。

デメリット

  • 現地法人の欠損金を親会社の課税所得と相殺できない。
  • 現地法人から日本の親会社への配当には10%の源泉税が徴収される。親会社の方で外国税額控除の対象となる。(日米租税条約が適用された場合、適用税率は受取側株主の区部により、0%~10%。)
  • 過少資本問題の対象となる。
  • 本社(関連会社)間取引は移転価格税制の対象となる。

4.Partnership(共同事業体)

米国でジョイントベンチャーを行うときに良く利用される形態である。パートナーシップには全てのパートナーが無限責任を負うジェネラル・パートナーシップと、無限責任を負うジェネラル・パートナーシップがいて、且つ出資金までの有限責任を負うリミテッド・パートナーがいる、リミテッド・パートナーシップがある。何れの場合でも各州のパートナーシップ法に基づく契約により2者(社)以上の合意により成立する。パートナーシップ自体は納税主体ではなく、年一回、Schedule K-1と呼ばれる損益配分の報告書の提出が義務づけられている。各パートナーはパートナーシップ契約に基づき各パートナーシップに配分された損益を自分の申告書に取り込んで申告する。勿論、給与関係税、固定資産税等の納税及び報告義務もある。給与関係税、連邦及び州パートナーシップ税務申告書等のために連邦雇用主(法人)番号の申請及び取得が必要である。

メリット

  • パートナーシップの損失を自己(パートナー)の利益と相殺できる。ジョイントベンチャーを会社組織で行えば株主が損失を取り込んで自己の利益を相殺することができる。
  • 二重課税を防ぐことができる。ジョイントベンチャーを会社組織で行えば、会社で一回そして株主が配当を受けった時にもう一度課税される。

デメリット

  • 日本法人が直接米国のパートナーシップに投資を行った場合、あたかも米国に一種の恒久的施設を所有してるかのごとくパートナーシップからの持分損益に応じて税務申告書を提出する義務がある。支店の項参照。
  • 日本の税法上たとえ現金の配当が無いにもかかわらず持分益を日本の税務申告書に含め課税される。

5.Limited Liability Partnership (有限責任共同事業体)

近年法整備され設立されるようになった事業形態である。上記のリミテッド・パートナーシップに良く似ているが全てのパートナーは有限責任しか負わず、無限責任を負うジェネラル・パートナーは存在しない。この意味では株式会社に良く似ている。法務上はあくまで有限責任を負い、税務上はパートナーシップとして取り扱われる。

メリット

  • 法務上、出資金額までの責任。
  • 上記パートナーシップの項参照。

デメリット

上記パートナーシップの項参照。

6.Limited Liability Corporation (有限責任株式会社)

近年法整備され設立されるようになった事業形態である。株式会社であり、法務上有限責任を負い、通常税務上はパートナーシップとして取り扱われる。税務上、選択により普通の株式会社として取り扱うことができる。上記のLimited Liability Partnershipとの主な違いは組織の永続性と権利の譲渡性である。パートナーシップはパートナーの死亡等により有限期間存在するが、Limited Liability Corporationは会社であるので理論上永続存在する。又、一般にパートナーシップの権利の委譲は他のパートナーの同意が必要だったり難しい、それに引き換えLimited Liability Corporationは株式会社であるので権利(株式)の委譲は比較的簡単(特に制限等が無い場合)に行える。

メリット及びデメリットは上記Limited Liability Partnership参照。

7.Sole Proprietorship (個人事業主)

個人が会社組織ではなく個人として投資することも可能である。特徴に関しては上記支店の項参照。

8.S Corporation (小規模法人、税務上非課税会社)

米国人が個人で会社を興す時によく採用する事業形態である。上記のLimited Liability Corporationと同様、株式会社であり、法務上有限責任を負い、税務上はパートナーシップとして取り扱われる。ただし、特定の金融機関、保険業その他はS Corporationとして営業できない。

メリット及びデメリットは上記Limited Liability Partnership参照。

ただ、株主に下記のような制限がある。

  • 株主数は最高75人まで。ただし、夫婦は1人と数える。
  • 一種類の株式しか発行できない。
  • 株主は米国人、居住外国人、Trust(信託)、Estate(遺産財団)、非課税法人。

したがって、日本法人はS Corporationの株主にはなり得ない。